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インド経済と東インド会社、そしてテニス大会撤退

writer: Mari Adachi Editor-in-Chief of Beyond Media

課題山積のインド経済

インドの7~9月四半期の国内総生産(GDP)が実質で前年同期比8.4%成長。新型コロナウイルスの前である2年前の水準を回復。インド経済は減速の兆しもみえる中国の後に続く世界の成長エンジン役を期待されている。感染爆発による落ち込みからの復調している。

ただ、インド経済は構造問題を多く抱えている。2回のワクチン接種を終えた人の割合は全人口の3割強ということなので、次の感染の波が来たらかなり心配。

首相であるモディさん、色々と改革を進めてはいるが・・・医療体制強化を含めたコロナ対策と経済政策の両面を解決するのはかなり困難。14億人の人口の多くを貧困層が占めている現状、その貧困状態から脱出させるのが大変。

GDP全体は回復しているが、消費支出は2年前の水準をまだ回復していない。企業の設備投資の回復も弱く、頼みである製造業の生産指数は5%強の成長にとどまっている。

就労者の4割が従事する農業の生産性向上も必要だけど、農民の反対デモに屈してしまい、昨秋国会で成立させた農業改革法を廃止。企業の成長を促す労働規制改革法も、各州の関連法整備が進まず施行できていない状態。


失業率は10月、7%台後半とまだまだ高水準。就労者の8~9割が社会保障の枠外にある「非正規」の仕事にしか就けない構造。インドの1人当たりGDPは2000ドル前後(=26万円ほど)で2年間足踏み状態。国民大多数の生活水準を一層底上げしていくためにも、さらなる改革が求められている。

東インド会社再び

イギリスの有力商人たちが出資し、独占貿易で巨万の富を築き、「近代的な会社の祖」として教科書などで知ってる、という人も多いかな。この東インド会社はオランダに本拠地を置き、私も2年前かな、会社設立のルーツに関する取材でオランダに行った。株式会社とか会社という組織、保険という概念などを作り上げたという点で画期的な会社だった。

実は今も「The East India Company」はロンドンにある。かつての東インド会社は1800年代に解散したが、現在の同名会社の会長、サンジーブ・メータ氏が「商標やロゴを所有していた会社を、2005年に約40人の英国人株主から買収した」。飲食料品の卸・小売業を営み、旗艦店には旧東インド会社の主力商品でもあった紅茶が140種も並ぶ。


ただの買収劇とは意味が違うとメータ会長はいう。インド人にとって同社の名前は本来は憎み、嫌うべきものかもしれない。ほぼ全土を植民地として統治された悲しい記憶があるからだ。「インド支配の象徴的存在である会社を、インド人である自分が買う。それは歴史を新たにつくることだ」ということで、メータ会長は買収に踏み切ったそう。

強欲と独占の象徴であるとも言われている旧東インド会社は、大きな遺産も残した。貿易で東西の人々と文化をつなぎ「グローバル」という概念をもたらしている。


悪い面は置き去り、良い面は継続することで人類は進化していくのかもしれない。メータ氏は功罪ある東インド会社の「功」を引き継ぎ、国々をつなぐ貿易という形で世界への貢献を目指している。

経済成長の原動力となったグローバル化は今、停滞の淵にある。米中経済摩擦が深まり、新型コロナウイルス禍で半導体などの供給網は分断された。世界貿易機関(WTO)によると、モノの貿易量は2020年に前年比で5.3%減っている。

2021年は10.8%増に転じる見込みだが、後発発展途上国(LDC)は輸出入とも約5%増にとどまる予想。パイの拡大を享受できるのは勝ち組の国々で、その構図は東インド会社の時代と変わらないのかもしれない。

東インド会社から400年。世界をつないできた「会社」は、独占から共存への道を探している。

テニス大会の中国撤退

女子テニス協会(WTA)は2日、中国国内(香港を含む)で行われる予定のWTAツアーを全てキャンセルすると発表した。四大大会女子ダブルス2勝の彭帥(ホウスイ)さんが中国共産党の元幹部から性的被害を受けていたと、11月2日に告白した後、消息不明となっていた件で、WTAは中国に公正な調査を求める声明を出し、適切な結果が出なければ中国からの撤退も示唆していた。

男女平等をうたって設立されたWTAにとっては大きな問題だとしている。「彭帥(ホウスイ)さんが自由に話すことが許されないならば、中国の大会で全選手・スタッフが直面するリスクを考えると非常に懸念がある」と、WTA最高経営責任者(CEO)のスティーブ・サイモン氏は撤退理由を説明している。


実は・・・WTAにとって中国は無視できない市場となっている。新型コロナウイルスが発生する前の2019年には年間9大会、さらに成績上位8選手や組によるツアー最終戦のWTAファイナル(深圳)が開催されていた。2018年に10年契約を結んだ同大会の賞金総額は1400万ドル(約15億円)に上っていて、男子ツアーを統括するATPのファイナル(総額725万ドル=8億円)より高額。


2008年の北京五輪前、メダリストを生むべく、中国は女子ダブルスを中心に力を入れていた。その時代に育った一人が彭帥(ホウスイ)さんだった。WTAもアジアオフィスを北京に置き、女子プロスポーツでは男子に引けをとらない賞金を維持するために、10年近く前から中国に依存してきた。ちなみに、WTAファイナルの冠スポンサーは中国に本拠を置く資生堂(中国)投資有限公司。


WTAも中国マネーに屈するのでは? という声は強かった。「私たちを見くびらないで」と、四大大会18勝のクリス・エバートさん(米国)が応じるなど、元選手たちは強気だ。WTAは1973年、「男女平等」を求めて女子選手9人が中心になって設立された団体という経緯がある。


ツアーがオープン化された1968年、男子のウィンブルドン選手権優勝賞金2000ポンドに対し、女子は750ポンドだった。大会の女子部門をカットしたり、賞金の男女比が12対1に抑えられたりする状況に 反発し、女子だけで立ち上げたのがWTAツアー。以来、四大大会の男女同額賞金を勝ち取るなど、戦ってきた。選手の人権を傷つけるセクハラ問題で譲歩したら、存在意義に関わるとの力学が働いたのだろう。

WTAの断固とした姿勢と対照的なのが、来年2月に北京冬季五輪の開幕を控える国際オリンピック委員会(IOC)。IOCは先月21日、バッハ会長が彭帥(ホウスイ)さんと30分間のビデオ通話で無事を確認したと発表して、なんとか穏便に済ませようという姿勢が丸見え。むしろ、IOCの人権問題への感度の低さが浮き彫りになった感じがする。


〜ラジオ川越12月6日の放送より〜

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