Beyond Media
雇用で女性の未来をつくる
更新日:2022年4月13日
writer Mari Adachi Editor-in-Chief of Beyond Media
北海道2つ分ほどの国土に1億7000万人もの人口を抱えるバングラデシュ。インドとミャンマーに隣接しているバングラデシュは、世界でも有数の人口密度を誇る。国家ができて2021年で50年という比較的若い小国は、政権の安定を支えに急激な経済成長を遂げている。4年後には途上国から脱し、新興成長国の仲間入りすると言われている。
そんなバングラデシュの成長の影には、取り残されている人々が多数いることも忘れてはいけない。コロナ禍で減少傾向にあったストリートチルドレンは再び街に溢れるようになった。女性も職を失い、家計は火の車。子どもに物乞いさせる親や子どもを手放す親も多いという。そんな状況を改善したいと、日本人が奮闘している。
ラジオ川越の番組「Beyond Media」での実際の中継のやり取り動画
増えるストリートチルドレン
その一人がNGOエクマットラで活動する渡辺麻恵さん。もともとNGOエクマットラは麻恵さんの夫である渡辺大樹さんが2003年に立ち上げた。バングラデシュにおける格差で取り残されている路上生活の子どもたちを支援し、ホームで引き取り、成長を助け、教育もサポートしている。
路上生活を余儀なくされている貧しい子どもたちに接したり、調査をしているうちに、子どもへの直接的な支援も大切だが、子どもの母親である女性たちへの支援が必要だと麻恵さんは痛感したという。そこで2016年8月、母親向けに仕事を提供する、手に職を付けてもらい自活できることをサポートするべくハンディ クラフト工房をバングラデシュの田舎町、ハルアガットに設立した。それがエクマットラ ハンディクラフトだ。
明日のみえる生活を
少しでも明日の見える生活をしてもらいたい、その思いから麻恵さんは突き進んだ。最初はなかなか女性たちの理解が得られなかった工房だが、地道に活動していくうちに協力者も増え、共感してくれる人も徐々に増え、雇用できる女性の数も増えていった。自分の手でモノを作り、それが世の中で売れて、給料という形で自分に返ってくる。一見、当たり前のようなこのサイクルがバングラデシュの女性たちの表情をどんどん変えていった。
「お給料を手にしたときの、女性たちの誇らしげな笑顔がとっても素敵なんですよ」と麻恵さんは言う。それまでの苦労が全て吹き飛ぶ瞬間だ。雇用によって女性たちの可能性は大きく広がり、自立できるようになり、これまで諦めていた「未来」が見え始めていく。
表情が輝くキラキラペン
まだまだバングラデシュでは女性の社会的な地位は低く、収入も限られ、自由を奪われているケースも多い。夫からのDVを受ける女性も多くいる。経済成長のはざまで、苦しむ女性たちの自立を助けることで、ほんの少しずつではあるが、世界は変えられると言う手応えを麻恵さんは感じている。
ハンディクラフト工房で作っているのはバングラデシュの民族衣装にも使われているガラスのビーズをペンの周りに装飾したキラキラペンや、特産物であるジュート(麻の一種の繊維原料で黄麻と呼ばれる)を使用したポーチなど。ひとつひとつ、女性たちが手作業で、時間をかけ丁寧に創りあげていく。
そんな麻恵さんだが、日本では舞台女優やタレント活動をしていた。その経験もあり、NGOの活動の傍ら、バングラデシュでも芸能活動を始めた。ダッカでアニメスタジオを運営している水谷俊亮さんと2017年に音楽ユニット「Bajna Beat(バズナビート)」を結成し、ベンガル語で歌を歌っている。日本人ユニットがベンガル語で歌うというのも評判となり、バングラデシュの「紅白歌合戦」ともいわれているテレビ番組にも出演した。国家的なイベントに出演したり、オリンピック応援歌も歌唱したりと、多忙な生活を送っている。
バングラデシュの「紅白歌合戦」にも出演
自分たちの生きている間に、何か良いもの、美しいものを残したい、という願いはNGOも音楽活動も共通の想い。その気持ちを表現したのが、2021年9月にリリースしたアルバム「LIFE -To yourself in 100 years」。100年後にも子どもや女性の笑顔が続くようにとの願いが込められている。アルバム収録の最後の曲、表題ともなっている「LIFE」は麻恵さん自らが作詞を手がけ、コロナ禍を経て、生と死を見つめ直した今の等身大の気持ちを描いた。
バングラデシュで最も知られる日本人
そんな麻恵さんは、現地の即席麺のテレビCMにも出演し、バングラデシュで最も知られている日本人にもなっている。
南アジアの小国、バングラデシュと日本の国交は2022年でちょうど50年。日本ではあまり報じられることのない国ではあるが、バングラデシュはとても親日派。日本からのODA(政府開発援助)の金額も、近年、インドを抜きトップとなっている。
未来を創造できる社会を目指して
コロナ禍でなければ、日本とバングラデシュの関係を祝う様々なイベントが予定されていたはず。それでも麻恵さんは自分がいまできる限りのことをやりつつ、日本とバングラデシュの架け橋になりたいと語る。
同時に、バングラデシュの弱い立場である女性たちをサポートすることで、女性が誇りを持って、自立し、子どもとともに未来を創造できる、そんな社会を広めていきたいと麻恵さんの挑戦は続く。
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