NYではスーパーも自粛に。一段上がる厳戒体制に第2の買いだめ波と沈黙する市民
writer 津山恵子[ジャーナリスト] from Business Insider
いつものことだ、と五感が麻痺できないものがある。1日中響く救急車のサイレンの音だ。
救急車の音が珍しくないニューヨークでもこの半月、格段にその頻度が増えた。サイレンで目が覚め、サイレンで眠りにつく毎日。
【写真】爆発的感染の中心地となっているニューヨーク市では、救急車がサイレンを鳴らし駆け回っている(4月6日)。REUTERS
サイレンは、新型コロナウイルスの重症患者を意味する。筆者の友人も感染したが、連日の高熱、寒気、下痢が続いても「軽症」として、オンラインでの診療を受けるだけ。つまり、サイレン=呼吸困難の患者の可能性が高く、そうであればICUで人工呼吸器が必要になる。1回のサイレンを聞いただけで、そう思うようになった。
4月6日、散歩に出て1ブロック歩いたところで、大音響のサイレンが近づき、反対側の道端に止まった。小柄な女性の救急隊員2人が、医療器具が入った大きな赤いバッグを背負って出てきた。近くの歩行者も、呆然として見ている。誰が感染していてもおかしくない、と頭では分かっていても、「ここまで来ている」と思うとショックは大きい。
サイレンを聞くたびに「生き残ろう」と決心する。「気をつけよう」どころではない。すでに自分も感染し、症状が出ていないだけという可能性も否定できない。
「この2週間が肝心。買い物にも行かないで」
4月4日夕、ホワイトハウス定例会見の中継で、新型コロナ対策チームのデボラ・バークス医師がこう発言した。
「この2週間が肝心です。今こそが、食品店にも薬局にも行かず、家族と友人を守るためにあらゆる手を尽くすべきです」
「爆発的感染」の最中にあるニューヨーク州をはじめ、事実上の外出禁止令を出している多くの州で、感染カーブがピークにさしかかっている。これ以上の感染を防ぐには、今こそ最大の行動制限を、と呼びかけた。
それでも耳を疑った。食品店やスーパー、薬局の営業を禁止するわけではないが、ホワイトハウスの医師が「行くな」と言っている。店舗は密閉空間でもあり、多くの人が出入りすることで、ウイルスに接触する可能性が増すからだろう。
翌々6日、意を決して配達してもらえない日本食スーパーに朝一番で出かけた。2週間は買い物に行かないことを決め、感染ピークが過ぎるまでの最後の買い出しだ。住んでいるクイーンズからマンハッタンまで地下鉄に乗る。地下鉄に乗るのも19日ぶりでドキドキしたが、1車両に2、3人しかいない状況だ。
店内も空いていたが、レジに行くと、生の人間と話をしたくて、思いつきで会話を始めた。黒い丈夫なマスクをした女性店員だ。
「マスクはありますか?」 「すみません、ないんですよ。病院に先に行ってしまって。いつ入荷することやら」 「いえ、作ればいいんですけど、使い捨てが少なくなると不安になって」 「私も間にペーパータオルを挟んで何回も使っています」
どうということもない会話だが、オンラインではなく人と話をしたことに少し明るい気持ちになった。
スーパーではカゴにも触らない
ところが、クイーンズに戻り、近所の大型スーパーに行くと、様相はガラリと変わり、殺気立っていた。明らかに、自宅待機に入る前の3月上旬に続き、第2の「買いだめ」が起きている。
多くの人がマスクと手術用手袋をまとい、特に若者は人が触れるカゴやカートを避け、布製のマイバッグに直接商品を入れている。誰も目を合わせようともしない。政府から指示されている180センチの「社会的距離」を確保するため、すれ違う時に立ち止まったり、棚に張り付いたりビクビクしている。
ここには1週間前にも来たが、商品棚も一変している。1週間前に空だったのはトイレットペーパー、石鹸、パンなどだけ。今は、ガラガラの棚が目立つ。トイレットペーパーだけでなく、キッチンペーパー、食事の紙ナプキンまでない。すぐに必要とは思えないラップや調味料の棚までスカスカだ。 ・・・もっと読む
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