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ウェールズ と 「arrogant」なイングランド
更新日:2022年12月11日
熱戦が繰り広げられているサッカーW杯カタール大会。日本はグループステージを突破し、ベスト8という新しい景色への期待で盛り上がった。このほかグループBではイングランドとウェールズが同じグループに入り、大きな注目を集めた。
みなさんはしっかり理解しているだろうか。わたしたちが言う「イギリス」とは4つの国から構成された連合国家であることを。それぞれの国に首都や国旗、独自の文化が存在している。よく混同される「イングランド」は「イギリス」を構成する国のひとつであり、このほか「ウェールズ」、「スコットランド」、「北アイルランド」がある。
【国の詳細は記事最後の「もっと詳しく!」を参照】
ウェールズ出身の夫を持つライターによるコラムが秀逸なので、ぜひ紹介したい。私たちが気づいていない目線での日常がそこにはあった。
writer メンデルスゾーン紫恵
開会式の翌日、ドイツ大使館チームのフットサルの試合の助っ人を引き受けた夫は15時に退勤し、夕食は出してもらえるようだと言って出かけていった。20時頃、衆議院議員会館と通行証の写真に「ここで夕食中」というメッセージが送られてきた。ドイツ大使館チームのみんなで議員会館に食事しに行ったのだろうか?よくわからないチョイスだと思ったが、「よかったね」と返事しておいた。
数時間後、「今日はすごく不思議な日だった」と、夫が数枚の名刺を手に帰ってきた。いちばん上の名刺の肩書は「コスタリカ大使館」。知らないのによく知っている国名のように感じた。
「コスタリカって……、日本が入っているグループEの国だよね!」
日本のグループリーグの対戦国ついては初戦のドイツしかわかっておらず、前日のテレビ番組で知ったばかりだった。
不思議な巡り合わせ
「英国大使館サッカーチームで一緒にやっているドイツ人の友達に、キーパーが足りないのだけど、と頼まれて行っただけで、フットサルの小さいトーナメントみたいなものだと思っていたのだけど、ドイツとコスタリカとスペインと日本の、大使館チームのトーナメントだった」とのこと。
なんと、グループEの構成国の大使館による親睦会のようなものだったらしい。大使館がない日本チームのメンバーは、外務省関係者や議員だったらしい。それで議員会館での会食になったというわけだ。
夫には、ユダヤ系の祖父が1933年にドイツからイングランドに逃れたバックグラウンドがある。ナチスの迫害によりドイツを離れた人は2世代遡ったところまで市民権を回復できるそうで、申請した夫はその資格が認められ、実は「ドイツ人」でもある。しかし誘ってくれた友達にはそのことは話していないといい、たしかにそんな場に導かれた不思議な巡り合わせのようなものを感じていた。
ウェールズの64年ぶりの出場
そしてその日の深夜近く、夫はアメリカ人の友達とウェールズ対アメリカの試合を観るために、出かけて行った。そのときのライブ放送では、イングランドがイランに対し強烈に強さを印象づける試合展開をしていた。
今大会、ウェールズの64年ぶりの出場は、夫にとっては母国の初めてのワールドカップ出場だった。ウェールズのスポーツの試合に深刻になりすぎるきらいのある夫は、出場をかけた最後の試合は「緊張しすぎて観ていられない」と、本当に珍しいことに、観ずにベッドに入ってしまった。半分諦めていたのだと思う。
6年前、夫は「ユーロチャンピオンシップ(欧州選手権)にウェールズが出場するなんて、生きている間にあると思っていなかったから、どうしても行かなきゃならない。兄弟の夢だったんだ」と言って、二人暮らしを始めるタイミングで大会チケットと航空券をとって、兄弟とフランスに行ってしまった。
限られた時間で大急ぎで物件を決めなくてはならなかったあの時は、「サッカーがそこまで大事なの?」と理解に苦しんだものだ…。そこまで大事らしいことは、今はわかる(理解できるとは言わないが…)。今年度残っていた有給は、ワールドカップの観戦スケジュールに合わせて消化することになっている。
生きている間に実現したワールドカップ出場は、6年前のチームが最強だと思っていた彼にしたら、少し想定外だったのだろう。そしてピークを越えたコンディションのチームで、因縁のイングランドと同じグループに入ってしまい、ピリピリと緊張感を漂わせている。
先月末、ラグビー日本代表 対 ニュージーランド代表戦を観戦したとき、私たちの前の席に、ニュージーランド人旅行者だと思われた若い男性2人組が座っていた。途中、夫とニュージーランド男子が少し言葉を交わしていたので、何を話したのか聞いた。
夫がウェールズ人と知った男子は、「ウェールズは2番目に好きなチームだ」と言っていたそうだ。そして「イングランドを負かすと痛快だよね」と言った彼に夫も同調し、笑い合っていたらしい。
そうか、ニュージーランドも英連邦国のひとつだ。
「こんなところにまたもや大英帝国の影!」と驚く私に、夫は「統治下にあったからという理由もあるけどそれだけじゃなくて、イングランドが“arrogant”だからだよ。支配されていなかったヨーロッパの他国からも、arrogantって思われているよ」。
「arrogant」の辞書での主な訳は「尊大な」「傲慢な」
そういえば、2019年のワールドカップの決勝戦を観に行った時にも、準優勝のイングランド選手たちは銀メダルを笑顔もなくふてくされたような態度で受け取る人ばかりで、夫は「Arrogant!」と不快感を示していた。私もあれは共に大会を戦い敗れていった他国選手たちに対して、またプレゼンターに対しても失礼な、尊大な態度だと思った。
このように書くと、夫がイングランドをただarrogantだからと毛嫌いしているように見えるかもしれないが、何か違う。
「イングランドをarrogantって言うのは大丈夫? バイアスにならない?」と、面倒くさい質問をぶつけた。
サッカーやラグビー、クリケットはイングランドで生まれた。大英帝国が世界を支配してきた時間のなかで、これらのスポーツも世界に広まっていった。イングランドでは、「我々が本場で、最高峰だ」という意識が根強い。サッカーは、「イギリス」4国でチャンピオンを競っていた大会に他国も加わるような形でワールドカップに発展したが、イングランドは当初「発祥国の我々のレベルに劣る国と競う価値はない」という立場をとって参加しなかったというのが夫の理解だ。
発祥国のプライドを裏付けるように、今でもイングランドにあるトゥイッケナム・スタジアムというラグビー場はイングランドでは「HQ(Headquarter:本部、根城)」、クリケット専用のローズ・クリケット・スタジアムは「Home of cricket(クリケットの本場)」と呼ばれている。
「今は、イングランドに勝つ力があって、ラグビーをリードしている国がほかにもあるし、クリケットのもっと立派なグランドもほかの国にある。サッカーも強い国がある。なのに、イングランドは発祥国だっていう高いプライドがあって、負けることに耐えられない。そういう振る舞いがarrogantってイメージになっているという話」。
若者に「相手をしてやろうか」と自信満々で将棋の対戦をもちかけ、勝てないと悟って将棋盤をぐちゃぐちゃにかきまぜちゃうおじいちゃんと、「あーあ、おじいちゃん負けず嫌いだから」って、苦笑いする若者&ギャラリーたちの場面を連想した。
国のキャラクターイメージの話
これまでに夫との会話のなかで、日本ではよく聞くどこかの国の人のイメージとか「国民性(傾向)」のつもりで、あるいは日本人だからいいだろうと考えて、日本人について(自虐を含めて)何気なく言ったことを、「それは差別につながってしまうから、言わないほうがいいと思うよ」と何度か指摘されてきた。自分は意識が低めだから気を付けねばという反省があって、少し難しく考え過ぎてしまったようだ。
夫は私がイングランド人(“イギリス人”)のarrogantというイメージがないことに気づいて少し驚いていた。私としてはどちらかといえば「posh(しゃれた、上流の、上品な←気取っているニュアンス)」というイメージをもっていた。
一昨日、イランに大勝したイングランドからは、人権問題へのアピールなども含めた立ち居振る舞いから、「Posh」よりむしろ「Gentle(寛大な、優しい、立派な)」ともいえる好印象を受けた。悪いときにこそ人間の本性が出るということはあるだろう。因縁の試合の行方は、そして大会の行方は、果たして…。
夫に日本対ドイツはどちらを応援するのか聞いたら、「日本のほうがつながりは強いし(在日13年)、Under dogを応援するのが好きだから日本かな」と。
「Under dog」を調べてみると「噛ませ犬」とあった。日本のほうが弱いって言われちゃっているわけだが、番狂わせがあるほうが面白いというのは同感。サウジアラビアがアルゼンチンに勝った試合も、まさかの展開に引きこまれた。
さて、日本初戦。応援する国が2つ(以上)あって大忙しの1か月が始まっている。
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<もっと詳しく!>
「イギリス」、その正式国名はthe United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland。正しく訳すと「グレートブリテン及び北アイルランド連合王国」。略称はUnited Kingdom(UK)もしくはGreat Britain。
「イギリス」を構成する4カ国は「イングランド」、「ウェールズ」、「スコットランド」、「北アイルランド」。1707年にスコットランドとイングランド王国が合併し、「グレートブリテン連合王国」が成立した。この時点でウェールズもイングランドに含まれていた。1801年に「グレートブリテン及びアイルランド連合王国」が成立し、アイルランドが連合に参加。1922年に北アイルランドを残してアイルランドが独立したことで、「グレートブリテン及び北アイルランド連合王国」へ改称した。
「イギリス」の国旗は、「イングランド」、「スコットランド」、「北アイルランド」の有力諸侯の旗の要素をあわせたもので、ユニオンジャックと呼ばれている。その時点で「ウェールズ」は「イングランド」に併合されているため、含まれていない。
サッカーやラグビーの国際試合では、4か国がそれぞれ別の国としてエントリーしている。そのため、イングランドもイギリスの国旗ではなく、独自の聖ジョージ旗をもとにしたユニフォームを着用している。
4国の首都と国旗は以下の通り
・イングランド:ロンドン、国旗は白地に赤い十字架の聖ジョージ旗
・スコットランド:エディンバラ、青地に白の斜め十字帯が特徴の聖アンドリュー旗
・ウェールズ:カーディフ、白と緑の背景に赤いドラゴンの独自国旗
・北アイルランド:ベルファスト、アイルランドの白地に赤い斜め十字帯である聖パトリック旗
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