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イスラエルにもそれなりの事情があるのです

writer Mari Adachi Editor-in-Chief of Beyond Media

人口およそ900万人のイスラエル。パレスチナとの紛争のニュースばかりが日本では報じられるが、主要都市テルアビブは先進都市となり、物価も世界一ともいわれるくらいに成長している。イスラエルのいま、イスラエルの思惑などについて、三菱商事のテルアビブ駐在所長の甲斐隆さんにお話を伺った。


Q1 テルアビブでの生活はどのような状況?

ーー 駐在して丸3年になるが、非常に穏やかな天候で、風光明媚な場所で住みやすい。ただ物価が高いのがネック。マクドナルドでビックマックのセットが3000円とか、なんちゃってラーメンでも2500円くらい。消費税が17%で、サービス料も13〜15%くらいかかるので、通常価格の3割増しくらいになってしまう。ただ、幸い、ビールは日本とさほど変わらない価格なので、助かっている。


Q2 その他はどうでしょう?例えばガソリンとか家賃とか。

ーー ガソリンは日本とだいたい同じくらい。それよりも社会的に問題となっているのが、家賃の高騰。年間5万戸くらいが不足していると言われている。というのも、イスラエルの出生率はとても高く、だいたい、一世帯につき、3〜4人の子どもがいるのが当たり前。宗教的な信条もあり、ユダヤ教の超正統派と言われる人たちは6〜7人は産む。そうなると当然、成人して、家庭を持つと、どんどん家が不足していってしまう、という事になる。日本、東京よりも遥かに家賃は高い。


Q3 イスラエルはコロナワクチン接種も早い。もう4回目?

ーー レストランに入るにもワクチン照明(グリーンパス)がないと入れない。接種は強制ではないが、学校や出張にもいつもグリーンパスを要求される。ロックダウンなどはかなり厳しく制限されたりする。また、ロックダウンの際、拠点長は外出許可証を持っているので、仕事に出ていた。その際、車を止められたので、窓をあけて顔を見せようとマスクをちょっと外しただけで、罰金をとられた。500シュケル(1万6000円)の罰金を払わされた。そういった部分は相当厳しい。一方で、反骨精神も強い人も多く、罰金を手に持って、サーフィンに出かけている若者もいたりする。


Q4 イスラエル、というとやはり紛争、衝突のイメージもある。今はどんな状況?

ーー 去年も空爆があったが、爆弾が私の頭の上を通過して行った。パレスチナのガザ地区にいるハマスというテロリスト集団が仕掛けてきている。それをイスラエルが迎撃ミサイルで撃ち落とす、という構図。先に相手が仕掛けてきているのだが、イスラエルの方が遥かに軍事力が高いため、悪者になってしまう。イスラエルの迎撃システムは相当、性能は高く、99%撃ち落としている。


Q5 イスラエルは男女ともに兵役がある

ーー 男性が3年、女性が2年。私の秘書をやってくれる女性のお嬢さんが兵役。イスラエルは不思議なことに皆、割と喜んで任務にいく。それは兵役に行くことで、人生のキャリアアップにつながるから。特にサイバーアタック処理の部署などに配属されれば、兵役終了後の就職はまず心配ない。ある意味、兵役が職業訓練だったり、キャリアップの場所にもなっているようだ。さらに、兵役に行くことで、イスラエル人の中には「イスラエル国民として一人前」という認識が強い。イスラエルは海外から移民でやってくるユダヤ人が多いのだが、兵役を済ませることで、立派な国民であることが証明されると思っている人が多い。兵役を通して、国家とは何か、民族とは何か、宗教とは何か、さまざまなことを学び、習得するといわれている。


Q6 歴史的な背景を考えると、パレスチナとイスラエルはなかなか相いれないものがある?

ーー 2000年前にはそもそもユダヤの国があった。その後、土地を奪われ、国をおわれてしまった。その後、1948年に国連の決議を経て、イスラエルという国を公的に設立した。それにも関わらずアラブ諸国からは悪者扱いされている。土地もロスチャイルドが資金を投じて購入しているにも関わらず。なかなか理解されない。


Q7 ヨルダン側西岸やガザ地区には今、パレスチナ人が200万人ほどが住んでいる。彼らも不便な思いをしている?

ーー イスラエル国家の中に、パレスチナ人の居住地を抱えている形になっている。パレスチナ人は港もなければ、国境の自由もない。イスラエル地域に入るときは全ての荷物を下され、チェックされ、また荷物を乗せる、などの不自由を強いられている。ただ、イスラエル側が電気、水、公共インフラ全てと提供している、という状況でもある。その辺は単にパレスチナ人を痛めつけているわけはない


Q8 実際、イスラエルに住むようになって、考えは変わった?

ーー イスラエルに住むまではとにかく周辺国からは「イスラエルはけしからん」と聞いてきた。しかし実際住んでみてイスラエル人と一緒に仕事をしてみて、考え方は変わった。イスラエルの人たちに言わせると、2000年前に国をおわれ、その後、各地で長い間、迫害をうけ、ドイツ・ナチスにもひどい目に遭わされ、国を持つこともできず、どれだけの血を流し、どれだけの努力を強いられてきたか、という点をよく耳にする。そこもしっかり評価されても良いのではないか、という言い分はよくわかるようになった。


Q9 パレスチナ地区にはイスラエル人が入植という形で事実上住み着いている?

ーー 前の首相、ネタニエフ氏のころは積極的だった。ゴランハイツというエリアがあるのだが、そこに当時、仲のよかったアメリカのトランプ前大統領の名前を冠して「トランプハイツ」という地区を作った。ただ、これは国連決議に反しているし、世界から非難を受けても仕方がない。ウエストバンクというエリアに入植をどんどん進めているが、残念ながらパレスチナの警察権や政治的な権力が及ばず、なし崩し的に入植が進んでいるようだ。


Q10 そもそもイスラエルも世界から利用されている?

ーー 本当はイスラエルも隣国とは仲良くしたい。元来、ペルシャ人とアラブ人は仲が良い。なので、友好関係を少しずつ広げていきたい。一方でパレスチナ人からすると、それは面白くないのかなと。テレアビブからガザ地区は80キロくらいしか離れていない。実は車で1時間ちょっとくらいの近い場所。紛争もなく穏やかにやってほしい。イスラエルにとって、いまアメリカが最大の友好国。アメリカがイランに睨みを効かせてくれるのはイスラエルには重要なこと。


Q11 イスラエルの問題は日本にも常に関係してくる?

ーー 中東情勢は原油、ガソリンの価格にビビットに影響してくるので日本にももちろん影響は大きい。なので、そういう観点からも色々と注視しておく必要はあると思う。先々、考えるとパレスチナとイスラエルがそれぞれ独立国にするのはやはり難しいのかとは思うが、うまく共存していくしかない。


Q12 イスラエルはグローバル?

ーー 最初から目線が海外。アメリカ、イスラエル以外に常に向いている。人口も900万人しかいないので、市場は海外だと思っている人が多い。教育水準も高い。教育ママのことを「ジューイッシュママ」と英語でも言うくらい。奨学金が充実していて、天才を作っていくのを支援する土壌がある。テルアビブには金融、製薬企業が証券取引所に上場しているが、その隣にはダイヤモンド取引所もある。


Q13 イスラエルと日本は共通点がいくつかある?

ーー イスラエルも成人、日本でいう昔の元服というのがあったり、お正月には年賀状のようなものを送る風習がある。マイムマイムという曲(キャンプファイヤーで踊るもの)はあの曲はイスラエルの民謡。ヘブライ語でマイム=水、ベッサッソン=歓喜、という意味。その昔、乾燥地帯だったイスラエルの地に、水が湧き出ていたり、水を掘り当てたりする度に、人々が歓喜の踊りを舞ったということからきている。日本ではいつの間にかキャンプファイヤーなどで円陣を組んで踊る時の曲になってしまったが。また、昔70年代ごろ、日本で流行った「ナオミの夢」という曲はイスラエルの曲で、日本でも大ヒットした。何かしら、昔から日本とイスラエルは共通項があるような気がする。


Q14 イスラエルといえば、スタートアップ企業が多いイメージ

ーー 6000〜7000というスタートアップ企業が毎年イスラエルには生まれていると言われていて、セキュリティ関係やセンサーなど防衛、軍関係の技術が発達している。フード、アグリテックも強い。周りが敵ばかりという環境から、食料自給率は100%とみられている。バイオシードとか、食品添加物、種子、発酵系の食品、培養肉、バイオフードなど。バイオうなぎも研究・開発している企業もある。水関連も強い。トムソーヤの冒険では「サボテンにも見捨てられた地」ともいわれたところだが、さまざまな努力を積み重ねてきている。海水の淡水化なども積極的に進めており、世界的にも強い技術を持っている。スタートアップが多い源流としては、世界にユダヤネットワークがあるというのも、大きいと思う。アメリカ、ヨーロッパだけでなく、アジア、特にインドや中国にも強いユダヤネットワークがあるといわれている。

Q15 イスラエルは失敗にも寛容?

ーー イスラエルの投資家はスタートアップを支援する際、支援先を選定する際、必ず聞くことがある。「これまで、何回失敗したか」「その失敗はどういうもので、そこから何を学んだか」。失敗していない起業家には投資をしない、という。みな、3回は失敗しろ、と言う。すごく良いことだと思う。失敗なくして成功はない、という考え方。


Q16 イスラエルは観光にもよいところ?

ーー 料理も色々な人種がいるので、たくさんの美味しい料理がある。物価は日本の2.5倍くらい、という感覚できてくれれば。またワインもかなり美味しくなっていて、300箇所くらいのワイナリーがある。3つの宗教の聖地、エルサレムもあるし、死海もあるし、紅海もある。コロナもおさまれば飛行機も直行便が飛ぶはず。イスラエルの人は日本が大好き。2019年、イスラエルから日本を訪れたのは4万人超。900万人の人口のうちの4万人。一方、日本からイスラエルに訪れたのは、2万人のみ。日本は人口比からすると10分の1くらい。それだけイスラエルはラブコールを送っているような感じ。治安も通常は問題ない。百聞は一見にしかず。


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