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  • 執筆者の写真Beyond Media

ミャンマーの民主化を止めるな

更新日:2022年2月8日

writer Mari Adachi : Editor-in-Chief of Beyond Media

スーチー氏の解放を求めてデモをするミャンマー市民(2月11日)


民主化が順調に進んでいたはずのミャンマーがいま、大きな岐路に立たされている。ぜひ日本のみなさんも見てほしい。考えてほしい。日本とミャンマーは実は深い縁があるのだ。


クーデターの経緯


昨年11月の総選挙をうけ、今年2月1日に新たなミャンマー連邦議会が始まるはずだった。しかし、この日の未明、最高指導者・アウンサンスーチー国家顧問やウィンミン大統領、その他の閣僚、地方首長などおよそ400人がミャンマー国軍によって拘束された。


その後、国軍は期間を1年とする非常事態を宣言を発令し、軍のトップであるミンアウンフライン司令官のもと、全権を掌握した。これはどうみてもクーデターなのだが、現在のミャンマー憲法では合法なのだという。


「去年11月の選挙で有権者名簿の名前の重複や選挙方法などに不正があり、改めて調査をする必要がある」

これが国軍の言い分だ。


確かにスーチー氏が率いている与党NLD(国民民主連盟)は2020年11月の選挙でおよそ8割の議席を獲得し、圧倒的な勝利を果たした。国民からの絶大なる人気を保持している。今後5年間もまたNLDの政権が続く予定だった。


しかし、これは国軍にとっては面白い話ではない。確かにコロナ禍で毎日のようにテレビ画面に登場する与党NLDや、スーチー氏の露出は、野党である軍政党にとっては不利な選挙戦だった。また、実際の選挙に関しては、どこまで本当に公正に行われたかは明確ではない。だからといって現政権を拘束し、クーデターを起こすことの正当性は認められない。


3本の指を立て軍部への抗議をする市民たち(2月11日)

各地で拡大する市民のデモ(2月11日)


度を超す国軍の市民デモの制圧


ミャンマー国民の多くが今回のクーデターに大きく反発している。連日、各地で大規模なデモが相次いでいる。国軍は最大都市ヤンゴンや第2の都市マンダレーなどを対象に、夜8時から朝4時までの間の外出禁止令や、公共の場での5人以上の集会を禁止した。


しかし、市民たちのデモは治まるどころか、むしろ国全体に拡大している。そんな矢先、国軍はデモ隊の強制排除に打って出た。9日の午後、抗議活動をしていた丸腰の19歳少女に対して、警官隊は発砲した。実弾は彼女の頭を貫通した。


国軍や警察のこうした態度は完全に度を超している。市民のデモはいたって平和裏に進められている。みな民主化や抗議などを意味する3本の指を掲げ、手を上げ行進しているだけだ。中にはプラカードを掲げたり、持っている鍋やフライパンをたたいてアピールしているだけ。どこを見ても暴力的な暴動などみられない。なのにだ。警察が市民に銃口を向けている。


軍部に有利な現憲法


国軍はそもそも、これまでも政治に大きな影響力を持っていた。2008年制定の現在の憲法は「議会の議席の4分の1は軍人に割り当てる」と規定している。そして、有事には「緊急事態宣言を発令し、軍の最高司令官が大統領の職務を遂行できる」としているのだ。それゆえ、国軍が今回のクーデターは合法的だと主張する所以となっている。


2016年以降のスーチー氏の政権が民主的な政治を進めていたにも関わらず、憲法は依然として国軍に有利なものだった。


NLDにとっては今回の連邦議会を通じて、どうしても憲法を改正する必要があった。憲法を改正しない限り、本当の民主化はなしとげられない。一方で国軍はなんとしてでもそれを阻止したい。それがクーデターを引き起こさせた本当の理由といえる。


国際社会はどうみているか


欧米諸国は民主化の動きが妨げられているとして非難する声明を相次いで出している。しかし、イマイチ歯切れが悪い。特に国連は「軍と国民の和解を促す」と声明を出したものの、クーデターへの直接的な非難は盛り込んでいない。その背景には中国が見え隠れしているからだ。


中国政府はこれまではスーチー氏に接触し、経済協力の姿勢を見せていた。去年1月、中国の習近平国家主席は


今年1月には中国の王毅国務委員長兼外務大臣がミャンマーを公式訪問し、スーチー氏やウィンミン大統領らと会談。コロナのワクチンを30万回分、中国が無償で供与することを約束した。


今回のクーデターは中国にとっても好都合だといえる。中国が掲げている「一帯一路」の構想の中、ミャンマーは天然ガスのパイプラインのカギを握る場所なのだ。


国連もミャンマー国軍への一方的な制裁について二の足を踏んでいるのは、国軍が中国の関与をさらに強めるのではないかと懸念しているためだ。


日本とミャンマーの親密な関係


日本政府もいまいち歯切れが悪い。そこには日本とミャンマーの特別な関係が見え隠れする。


話はスーチー氏の父親の時代に遡る。「ビルマ建国の父」と呼ばれたアウンサン将軍はスーチー氏の父親だ。彼は1941年、日本に渡り、イギリスからの独立支援を日本から取り付けた。しかも日本軍のもとで、ビルマの独立戦争のための軍事訓練を受けていた。


1942年、アウンサン将軍はタイ・バンコクでビルマ独立義援軍を創設。この義援軍は今のミャンマー国軍の母体といわれている。その後、義勇軍はビルマからイギリスを追い出し、独立に成功した。しかし、太平洋戦争が激化し、日本がインパール作戦に失敗したことから、ビルマは再びイギリスと手を組むことを決めた。


アメリカやイギリスなどの連合国の指揮下に再び入ったビルマはその後も独立に向け活動を進めたが、1947年、ビルマの独立を前にアンサン将軍は暗殺された。アンサン将軍は32歳、スーチー氏はわずか2歳だった。


このように日本はビルマの独立への戦いに大きく関与していた。今でもミャンマーの国軍の歌は日本の軍歌を元にしており、今でも歌われている。さらにスーチー氏の民主政権になって以降も日本政府は軍とのパイプをキープし、積極的に支援してきた。ミャンマーへの支援の源泉は当然、日本の税金。つまり、日本国民にとっては間接的ではあるがミャンマーと十分関係があるといえるのだ。


いま、ミャンマー国民が必死で叫んでいる。

「強硬姿勢の国軍から市民を守ってほしい」
「民主化を妨害しないように助けしてほしい」

度を超す国軍の制圧はますます強まっている。インターネットや通信もクーデター直後は断絶された。その後、国内外からの批判が高まり、一旦、通信は復旧しているが、いつまた遮断されるかわからない。現段階ではフェイスブックやツイッターなどのSNSの禁止には至っていないが、すでに国軍はSNSについて、検閲を入れているという噂も出ている。言論の自由も奪われかねない。


日本から何ができるのか


まずはミャンマーの今についてしっかり知ってほしい。ロヒンギャ問題でスーチー氏が海外諸国から非難の声が上がっていた。果たしでそれは彼女の本意だったのだろうか。何か裏があったのではないだろうか。中国とも親密だと報じられていたスーチー氏、それには何かワケがあったのではないだろうか。これまでも色々と裏で軍部が支配していたとも言われている。


日本も去年、コロナ禍にありながら8月、わざわざ茂木外務大臣がミャンマーを訪れた。茂木外相はスーチー氏と会談し、その直後に今回のクーデターの首謀者であるフライン国軍司令官とも会談をしている。緊急財政支援300億円や中小企業支援として150億円の円借款を約束した。これまでのODAも含め、様々な支援を日本は提供してきているが、どこまで正しく使われているのか、軍部の私腹を肥やすことに繋がりはしないか、今一度確認する必要があるかもしれない。なぜならミャンマーの国民がなかなか豊かになっていない、貧富の差はますます広がっているとの声が多くきかれるからだ。

ストリートに座り込みデモを続ける市民(2月11日)


民主化が道半ばでいま、再び軍事政権に戻ろうとしているミャンマーにぜひ注目して、目を向けてほしい。


アメリカのバイデン政権はミャンマー国軍に対して制裁を課す姿勢を示しているが、いまだに中途半端な姿勢を示している日本政府にぜひ声を上げてほしい。長い期間、世界の覇権争いに巻き込まれ、翻弄させられてきたミャンマー、旧ビルマの民主化の歩みを止めさせてはいけない。放置せず、何かひとつ皆が動くことで、世界は変わる。変えられる。




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